UCIのギア比制限は業界にとって本当に良いことなのか?

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正直、私のようなレースにも出ない週末へっぽこローディーにとっては直接的には何のインパクトもない話なのですが、ちょっと今回の規制に関しては思うところがありますね。

UCIのギア比規制はSRAMだけでなくシマノや他のメーカーの技術革新をも阻むリスクがある

改めてUCIのギア比規制について

既に各方面で取り上げられていますので、今更私があれこれ書くまでもないのですが、UCIが2025年8月1日から一部のプロロードレースで試験的に導入したギア比制限(Maximum Gearing Protocol)は、以下のような内容となっています。

  • ギア比の上限をペダル1回転で進む距離(展開長)として最大10.46メートルに制限する。これは約「54×11T」のギア比に相当
  • この規制は、マススタートのレース(一斉スタートのレース)に適用され、タイムトライアルには適用されない
  • 試験的な制限として導入され、該当レースではチェーンリングの歯数やリアスプロケットを測定し、規定を超えたギアの使用はレース違反とされる
  • 規制の目的は、下り坂などでの過度な高速走行を抑制し、選手の安全性を向上させることにある
  • SRAMの10Tスプロケットを採用したドライブトレインは、この制限により使用が困難になるため特に大きな影響を受けます。ShimanoやCampagnolo、FSAは最大が54×11Tのため対応しやすい構造となっている
  • UCIは試験期間中にデータ収集と関係者からのフィードバックを行い、その後の規制の継続や修正を検討する予定

この新規制はプロロードレースにおけるギア比制限の初の本格的な技術的制限であり、安全向上のための速度抑制措置として位置づけられています。生身で走るロードレースにおいて、特に下り坂で過剰なスピードが出ないように一定の制限をかけたい、という思いは分かりますが、果たして「時速○○km以上だったら危険 ≒ ギア比が○を超えたらNG」という相関関係性を導き出すことは、本当に可能なのでしょうか?

SRAM社の反応

SRAMはこのギア比制限がイノベーションを阻害し、SRAM製品を事実上レースから排除するものであり、EUおよびベルギーの競争法違反と主張しています。SRAMのCEOはこの制限によりライダーやチームが競争上不利になると強く批判しており、UCI側の安全性向上の主張には裏付けがなく、独自分析ではギア比と落車の関係は見られないと反論しています。

競争当局は9月17日から正式に調査を開始し、SRAMは規制の即時停止と規則決定過程に機材メーカーの代表参加など透明性の向上を要求しています。この動きは自転車ロードレース界のルール決定のあり方に影響を及ぼす可能性があるとの見方もあります。

海外メディアの反応について

海外の自転車、ロードバイクメディアは、SRAMがUCIの導入したギア比制限(Maximum Gearing Protocol)に対してベルギー競争当局(BCA)に不服申し立てを行ったニュースに対し、次のような反応や報道をしています。

  • 多くの米メディアは、UCIが2025年8月から試験的に導入した「Maximum Gearing Protocol」によるギア比制限が、特にSRAMに大きな影響を及ぼすと報じています。SRAMは10Tの小型スプロケットを使用しているため、この制限(最大ギア比54×11相当、展開距離10.46m)が適用されると、SRAM使用の多くのプロ選手はギアセットアップを大幅に変更せざるを得なくなります
  • SRAM製品を使用するチーム(Movistar、Visma、Lidl-Trek、Red Bull-BORAなど)は、ギアの制限により技術的・競技上の不利が生じる可能性が指摘され、競技パフォーマンスへの影響や戦略変更も懸念されています。特に一体型(1x)ドライブトレインの使用がほぼ不可能になるため、SRAMの革新的な機材利用に大きな制約が生まれるとされます
  • 一方、ShimanoやCampagnoloのような他ブランドユーザーは、小型スプロケットが11Tのため、この制限による大規模な機材変更は不要で、影響は比較的小さいという見方です
  • UCIは安全性向上の観点を挙げていますが、選手やチーム関係者からはこの規制が競技の自由度や技術革新を妨げるとの批判や戸惑いも伝えられています。米国のプロ選手組合(CPA)の代表は中立的な立場で調査と評価を見守る意向を示しています

SRAM社が即座に反応しているように、「今回の規制はSRAM狙い撃ちだよね」という受け止め方をされているようですね。

UCIからの反論

SRAMの申立てを受け、早速ベルギー競争当局(BCA)が提案されたギア比制限に関する調査を開始したと公表しています。
これに対して、ベルギー競争当局がUCIに苦情が正式に通知される前にプレスリリースを発表したこと、およびこの声明に含まれる明らかな不正確さについて「困惑している」と表明しています。

早速ドロドロしてきました。

UCIは改めて、この試験プロトコルを経てから改めて最終的な結論を出すものであること、並びにあくまでも選手の安全性を第一に考えて検討しているものであることを強調しているようです。

本来どうあるべきだったのか?

正直、今回はUCIの対応が「雑」だったと言わざるを得ないですね。

速度に対するリスクを低減する為に、適切なギア比や速度制限について議論したいというのであれば、まずは「ギア比とそれに伴い生み出される速度、その結果として自己発生率、リスク」について試験検証を行うと発表すれば良かったのであり、ギア比の上限を54×11Tに設定すべき、という「結論」を最初に示してしまったことが拙速と言わざるを得ないですね。

まさに、SRAMのCEOがコメントしているように、「SRAMのギア比は公に非適合とレッテル貼りをされ、評判の毀損、市場の混乱、チームと選手の不安、法的リスクの可能性を引き起こした」ことに変わりはないわけで、今回のUCIの発表がどういった反響を生むかは容易に想像できたのではないでしょうか。

陰謀論が好きなわけではないですが、シマノやカンパと通じていて、SRAMを狙い撃ちにする為に最初に悪となるギア比を宣言したのであれば別ですが、そうでないなら発表の仕方については慎重になるべきですね。

そして、今回の規制は、目先のSRAMだけでなく、シマノの今後の技術革新をも阻むものとなっています。

今回改めて陰謀論が囁かれている位ですから、今後シマノがトップ10Tのカセットを開発・発表した際に、規制を見直すようなことは「絶対にできない」ことになりました。
もしそんなことをしてしまえば、確実にSRAMから訴えられてしまい、多額の賠償を請求されることになるでしょう。

そうなると、シマノもトップ10Tのカセットの開発を事実上放棄することになります。

シマノにとっては、トップ10Tに対応させるにはあまりにも既存コンポへの影響が大きいので軽々に採用することできないだろうという主張もありますが、過去デスクブレーキ化においては過去のホイールを全て闇に葬り去った事実もあるわけで、メーカーサイドからすると、それはそれで「新しい商売のネタ」にもなるわけで。

トップ10Tをマーケットに投入するには、下り坂になると自動的に減速するようなシステムとセットにしないとダメでしょうねー。(そんなことできるのかはさておき)

今回の規制については、正直技術革新を阻害する、という指摘は「まさにその通り」としか思えませんし、それはSRAM社だけでなく、他のコンポメーカーにとってもネガティブな内容としか思えません。

そんなことより、レースのコースを見直せば良いやん。あほかいな。

ちょっと今回ばかりは、イラっとしてしまう内容でしたね。

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