9月から繰り広げられていたSRAMとUCIのギア比規制に関する闘争ですが、第一ラウンドはSRAMの勝利となりました。
ベルギー裁判所はSRAMの主張を認めUCIギア比規制の撤回を求める
おさらい〜UCIのギア比率規制について
まずはUCIが安全を高める為という名目のもとに施行しようとしていたギア比規制については、先日まとめて記事にてご確認頂ければと。
端的には、下り坂でのスピードの出し過ぎを抑制する為に、「54×11T」を超えるギア比を使用してはいけないというものであり、これは即ち、SRAMのトップ10Tの使用を禁止するものでした。

SRAMを狙い撃ちにした規制ということで、ベルギー裁判所に規制撤回を求めて提訴していました。
ベルギー裁判所の裁定
BCA(Belgian Competition Authority:ベルギー競争庁)は、SRAMが訴えていた「最大ギア比基準」が技術革新を阻害し、不公平な競争環境を生み出すと判断。UCIに対し、「54×11」までに制限していたギア比規則の即時停止を命じました。
この基準はSRAMの「Red AXS」および「Force AXS」グループセットに採用されている10歯スプロケットを事実上利用できなくするものでした。
BCAは声明で、「安全確保という目的の正当性は理解するが、技術基準は比例性・客観性・透明性・非差別性を備えていなければならない」と指摘。また、「この規制はSRAMおよびSRAM製コンポーネントを使用するチームに深刻で修復困難な損害を及ぼす」とも述べています。
選手の安全性を目的とする点は当然支持されるべきではありますが、その為に施行する規制については、公平性が必要であり、またその経緯についても透明かつ公正である必要があるわけですが、今回は明らかにSRAMに不利な内容となっていましたから、それはアカンわ、というわけですね。
UCIという業界団体であれば、当該規制がシマノには影響がなく、SRAMのみに影響があるという点はよーーーーく理解していたはずですから、このやり方はよろしくなかったわけです。
欧州全体への影響とUCIの対応
BCAの決定はベルギー国内機関によるものではありますが、欧州競争ネットワーク(ECN)の一員としてEU全域にも影響を及ぼす可能性があります。UCIが今回の裁定に従わない場合、欧州全体での監視強化に直面するリスクがありますので、「ベルギーだけの問題だし」と受け流すことはできないわけですね。
今回の裁定を受け、UCIは来週予定していたテスト導入を一時停止すると発表。しかし同時に、「選手の安全を目的とした正当な研究への不当な介入だ」として、上訴する意向を示しました。
ま、UCIとしてもここで引くわけにはいかないのでしょうが、あまり長引かせるのも良くないと思うのですが・・・。
UCIは声明で、「この決定は米国企業からスイスのスポーツ団体への苦情をもとに出されたもので、驚きを禁じ得ない」と述べつつ、「安全確保のための活動は今後も継続する」と強調しています。
うーん、ちょっと言い分も見苦しく感じてしまいます。
SRAMは「オープンなガバナンス」を提唱
一方、SRAMはBCAの裁定を歓迎。CEOのケン・ラウスバーグ氏は「革新と安全は対立するものではなく、むしろ密接に結びついている」と述べ、自転車競技のルール策定において透明性と協調を重視する新たな枠組みを求めました。
「今こそ、UCI、チーム、選手、スポンサー、レース主催者、自転車産業が協力し、スポーツとそのファンのためにより良い未来を築くべき時だ」と語り、開かれた意思決定プロセスの必要性を訴えています。
スポーツ競技においてはルールは普遍的なものではなく、技術や選手の進化に応じて変わるべきものですし、時として競技人気を高める為にもルール変更は求められるものだったりします。
そこで問題となるのが、ルールの取り決め方法。競技機関「のみ」が一方的にルールを決めていくのは、どうしても無理がありますし、不満だって呼び起こすわけで。
UCIもこれを機にルール変更に際してはもう少し開かれた、より多くの声を聴くプロセスに変更してく必要があるのではないでしょうか。
今後の見通し
BCAの命令により、UCIは10月13日までにギア比規制の実施を停止し、24時間以内に公式声明でその旨を発表しなければなりません。違反した場合、罰金や追加措置の対象となりますから、まずは従うことでしょう。
この裁定が短期的にギア制限を止めるだけでなく、今後のサイクリング界における技術革新と安全性、そしてガバナンスのバランスを見直す契機となるのか注目されますね。
また、上訴に対してどのような裁定が下されるのかによっては、今後の方向性も大きく変わっていきますので、単なるギア比規制というトピックではなく、今後の自転車業界を占う上でもちょっと気になる話になってきました。


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