良いニュースなのか悪いニュースなのか。。。
イタリアの名門コンポーネントメーカーであるカンパニョーロから昨年大規模なレイオフに関する報道が出ていましたが、最近になって「レイオフは行っていない」「今後もレイオフはしない」と明言し、今後の再建プランとあわせて発表が行われました。
カンパニョーロに何が起きているのか
経営危機ばかり叫ばれる状況に
ここ数カ月、カンパニョーロという名前は「新型コンポ」よりも「経営危機」「大規模レイオフ」といった物騒なワードとセットで語られてきました。
発端は、イタリア・ヴィチェンツァ本社で働く従業員の約4割、最大120人を削減するのではないかという報道があり、自転車メディアやSNSでは「カンパ終了か」「ついに身売りか」といった悲観的な声が飛び交っていました。
私自身もその一人だったわけですが。

しかし、当のカンパニョーロは沈黙していたわけではなかったようで。
報道や憶測が先行するなか、水面下では労働組合や地域行政と協議を続け、別の道を模索していました。
その結果として発表されたのが、今回の「レイオフは行っていないし、今後も行わない」という公式声明です。
カンパニョーロの公式見解は「レイオフは行わず」
カンパニョーロが今回公表したポイントは以下の通り。
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報道されていたような大量解雇・レイオフは実際には行われていない
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労働組合などとの協議の結果、今後もレイオフを行わない方針で合意した
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代わりに、深いレベルでの事業再編・内部リストラを通じてコスト削減と立て直しを図る
特に、「There were no layoffs(レイオフはなかった)」というフレーズは、誤報・誤解を正す決定的なメッセージとして打ち出されています。
これは、各種WEBメディアで“解雇は既定路線”として語られていた状況に対して、カンパニョーロが強くイメージの挽回を図ろうとした表現でもあります。
ただし、ここで重要なのは「レイオフはない=何も変わらない」ではないという点です。声明では、雇用を維持する代償として、会社側も従業員側も相応の痛みを引き受けることに触れています。
レイオフ回避の代償:深い内部再編と労働時間短縮
カンパニョーロは“雇用は守るが、事業構造は大きく組み替える”という選択をしました。
具体的には、以下のような施策が示唆されています。
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労働時間の短縮やフレキシブルな勤務形態を導入し、人件費を段階的に抑える
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部門の再配置や業務プロセスの統合で、重複コストを削減する
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生産や開発の体制を見直し、より収益性の高い領域にリソースを集中させる
これらは単なる「小手先のコストカット」ではなく、会社の中身を入れ替えるレベルの深い再編となります。
従業員の側から見れば、仕事そのものや勤務条件が変わる可能性が高く、決して痛みゼロの“ハッピーエンド”ではありません。それでも、「クビを切らない」というラインだけは死守した――その姿勢こそが今回の合意の核心だと言えます。
今回、従業員(組合)側も、大きく歩み寄った感じですね。
「より収益性の高い領域にシフトする」というのは、とてもシンプルかつ合理的な宣言に聞こえるかもしれませんが、それが既存の従業員にとって「得意な領域」だったり「すでに保有しているスキルで対応できる事業」とは限らず、従業員としてもリスキルを求められたり、自分に合わない場合には結局は転職を迫られる可能性もあります。
日本の大企業で「力が強すぎる」組合の場合、こういったケースではなかなか譲歩してくれなかったりしますからね。。。
なぜここまで追い込まれたのか
では、なぜカンパニョーロはここまで追い込まれたのか。以下のような点が主な要因として挙げられるかと思います。
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コロナ禍バブル崩壊後の需要減退と在庫過多のダメージが大きい
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2024年度には約2,400万ユーロ級の赤字を計上し、規模の割に損失額が重い
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ハイエンド寄りのラインアップに偏り、中価格帯の市場をシマノやSRAMに奪われてきた
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ワールドツアーチームからの撤退・縮小でプロレースでの露出が減り、ブランド力の維持が難しくなっている
簡単に言えば、「高級でこだわりのあるブランド」であるがゆえに、数を売るボリュームゾーンでの戦いに出遅れ、コロナ後の急激な需要調整で一気に苦しくなった、という構図です。
AG2R や Cofidis などのワールドチームとの関係縮小も象徴的で、「レースで見かけないコンポは、一般ユーザーの頭からも徐々に消えていく」という悪循環に陥っていたことが指摘されています。
「ブランドを殺さない」ための再出発プラン
そんななかでカンパニョーロが今回の声明とともに示したのは、「ブランドを守りながら事業を再構築する」という中長期のプランです。
ポイントは大きく3つあります。
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レイオフ回避と雇用維持
先述の通り、労働組合などと合意し、今後の再建プロセスにおいてもレイオフを回避する方針を打ち出しました。
これはイタリア企業としての社会的責任や、地域経済への影響を重視した判断でもあります。 -
内部再編とコスト構造の是正
深い内部リストラによって、固定費の削減と収益性改善を図ります。
その過程で、開発・製造・マーケティングの優先順位を付け直し、“ブランドをすり減らさない範囲での合理化”を進めるとしています。 -
新しい製品戦略、とくにミドルグレードのテコ入れ
記事中では、ミドルグレード帯の新グループセットや、新しい価格帯への展開に言及があり、今後数年でラインアップの再構築を進める姿勢が示されています。
これは、「ウルトラハイエンド専業」から一歩引き、もう少し広い層に届く製品を作り直すという方向転換でもあります。
雇用を守りながらリストラで復活を遂げることはできるのか?
今回の発表を読み解くと、カンパニョーロは崖っぷちに立たされている一方で、「ブランドの魂だけは売らない」という意志も感じられます。
会社を守りながら、短期的な利益よりも、長期的にブランドを残す道を選ぶ形になりました。
ただし、その道は決してラクではなく、再建の成否はまだ見えない、というのが正直なところですね。
今回のカンパニョーロのように、雇用を極力守りながら、事業構造を大きく組み替えた例はかなり多く、「うまくいったケース」と「最終的に失敗に終わった/十分な成果が出なかったケース」といずれも先例があります。
ちょっと本筋からは逸れますが、個人的に記憶にあるものでいくつか代表例を挙げてみようと思います。
1. トヨタ自動車(リーマンショック時の減産対応)
まずは世界のトヨタ。今でも絶好調ですから「成功例」ではありますが、常に成功だけを繰り返してきたわけではありません。
2008〜2009年の世界金融危機で、トヨタは大幅な減産を強いられましたが、日本国内では正社員の整理解雇は極力避け、「一時帰休」「配置転換」「教育・研修への振り替え」といった手段によって雇用を維持しました。
その間に生産方式や品質改善の研修を集中的に行い、生産性向上とスキル蓄積を図ったことで、市場回復後に素早く供給を戻すことができたと評価されています。
結果として、短期的には利益が落ちても、長期的な競争力と従業員の熟練度を維持・強化できた「雇用維持+構造調整」の成功例とよく紹介されます。
2. 日立製作所(雇用維持を前提にした事業ポートフォリオ転換)
こちらも誰しもご存じの日立製作所。
リーマンショック後、日立は巨額赤字に陥りましたが、「大規模な正社員解雇で一気に縮む」のではなく、非中核事業の売却・統廃合、グループ内再配置、海外への配置転換などで事業ポートフォリオを組み替えました。
同時に、インフラ・IT・社会システムといった成長分野へ人材と投資を集中し、「家電メーカー」から「社会インフラ企業」への転換を進めました。
全体として従業員を大きく削らずに、事業構成の入れ替えで利益体質を改善し、現在の高収益体制につながっているとされています。
日立については、トヨタ以上に「成長分野に人材と投資をシフトした」成功事例と言えるのではないでしょうか。
3. シャープ(旧体制末期の雇用維持と構造改革の遅れ)
続いて、こちらもみなさんご存じのシャープ。
シャープは液晶事業の不振が深刻化してからも、当初は大規模な人員削減には踏み込み切れず、銀行支援や政府系資金に頼りながら事業再編を進めようとしました。
しかし、不採算事業からの撤退や経営体制の刷新が後手に回り、「雇用は極力守るが事業構造の変化は遅い」という状態が続いた結果、赤字が膨らみ、最終的に台湾・鴻海による買収に至りました。
一定の雇用は守られたものの、独立した日本企業としてのシャープは事実上終わり、従来のガバナンスやブランドのあり方という意味では「うまくいった」とは言い難い例として語られることが多いです。
「液晶と言えばシャープ」というイメージがあまりにも強く、事業再編がうまく行かなかったケースでね。
4. JAL(旧日本航空、破綻前の「雇用維持最優先」)
こちらも超有名なJAL。正確には「旧日本航空」ですね。
破綻前のJALは、政治的配慮や企業文化もあって雇用維持が強く意識され、路線整理や機材更新、組織スリム化が十分に進まないまま、赤字路線や高コスト体質を抱え続けました。
雇用を守ることが優先されるあまり、必要な構造改革の決断が先送りされ、最終的に会社更生法適用という形で公的管理下に入り、大幅な人員削減と抜本的な組織改革を余儀なくされました。
結果として再上場し、経営指標は大きく改善しましたが、「当初の段階で雇用維持を前提にした“ぬるい改革”を続けたことが、かえって痛みを大きくした」と反省材料として取り上げられます。
個人的に気になるのは、カンパニョーロも「企業文化や過去の高級路線のイメージ」が強すぎると、構造改革が「ぬるい」ものに陥ってしまうリスクがある点でして、旧日本航空と同じ道を辿るリスクが払拭できなかったりします。
私自身もホイールはカンパを愛用していますので、一ユーザー目線で言えば、今回の発表は「とりあえず会社が残る」「メイド・イン・イタリーのコンポがいきなり消えることはなさそうだ」という安堵感があります。
一方で、膨らんだ赤字や競争激化という現実は厳しく、「今回のレイオフ回避は、あくまで本格的な再建策を練るための“時間稼ぎ”に過ぎないのではないか」という見方も否定できません。
成功となるか、失敗に終わってしまうのか。
踏みとどまって欲しいですね。

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