ロードバイク界隈あるあるですが、時代とともに「常識」は変わり続けています。
ロードバイク向けタイヤテストで使われるドラムテストはどこまで信頼できるのか?
ロードバイク界隈で変わり続ける常識
私がロードバイクに乗り始めた頃は、タイヤに関してはまさに転換期でした。それまでは「タイヤは細い方が早い」「転がり抵抗を小さくする為には、空気圧は高い方が良い」と主張するローディーがまだまだ沢山いた時代でしたね。
素人なりにロードバイク購入に際して試乗をさせてもらった際に、「23cとかほっそ。怖いわ」とか、「タイヤがパンパンになるまで空気入っていて、ちょっとした段差でも車体が跳ねて怖いわ」と感じてしまい、「これで早く走れるのかもしらんが、安全に走る為にはテクニックも必要になるんだろうねー」なんて感じていました。
蓋を開けてみたら、テクニック云々関係なく、実はそのセットアップよりもタイヤ幅(リム内幅)を広げて空気圧を下げた方が相対的に「速い」というのが昨今の通説になっているわけですが、当時はそんなこと言う人は見かけませんでしたね。
従来型のドラムテストにおける問題点
ドラムテストの問題点についてはこちらの記事で綺麗にまとめてくれています。
スチールドラムの大きさによってタイヤの性能が変わってしまうことだ。ドラムの直径が小さいと、低圧のタイヤやトレッドの多いタイヤではヒステリシスロスが大きくなってしまう。道路は比較的平坦であり、これを正確に反映させるためには、ローラードラムは巨大でなければならない。
ドラムテストはロスの一面しか示さないので、高い空気圧の方が転がり抵抗が小さいように見える。そして長い間、これがサイクリングにおける通説だった。しかし現在では、これは誤りであることがわかっている。実際の路面となると、圧が低いほどインピーダンス損失が小さくなり、路面がでこぼこになればなるほど、その損失は大きくなる。
ほんとこれが核心ですよね。
ドラムテストのドラム直径なんて、どう頑張ったところで実際の路面に近づけることなんて無理なわけですから。(近づけようとするなら、極端な話、地球サイズのドラムが必要になるわけで)
そんな環境で計測した結果を信じてしまうと、「空気圧が高い方が抵抗は少ない」という結論になるわけで。
そんな主張を何年も続けてきた業界関係者の発言なんて、ほんと信じられないわけですが、これはロードバイク界隈に限った話ではなく。
所詮「テスト」は、自分等に都合の良い結果しか対外公表しないわけで、なかなかに闇は深いです。
さておき。
ドラムテストも、転がり抵抗を計測する指標としては信頼に足りるわけで、今でも自社新製品を発表する際には、「転がり抵抗をxx%改善」という売り文句は続けられており、一つの分かりやすい指標にはなっています。
ただ、元記事では何に配慮しているのかは分かりませんが、以下のようなコメントもあり、ちょっと残念。
ドラムテストは 「タイヤ間の相対的な違いを予測する 」のに役立つという。つまり、ドラムは平滑でない路面での実際のCrr(転がり抵抗係数)を予測することはできないが、ドラム上でタイヤAがタイヤBよりも3%速ければ、現実の路面では3%に近い速さを発揮する “ということだ。
いやいや。
平滑でない路面での転がり抵抗を予測することができない以上、ドラム上で速いタイヤの方が速いとは言い切れないはずなのに、何かに忖度しているのか分かりませんが残念な物言いが残っています。
この論法をそのまま信じるなら、ドラム上で速い空気圧の方が、実際の路面上でもやはり速いはず、という自己矛盾につながるわけですから・・・。
別の計測方法その1「チュン・メソッド」
それではスチールドラムテスト以外の計測方法はないの?という話になるわけですが、一つの選択肢としてチュンメソッド(Chung Method)と呼ばれる計測方法があります。
比較的、エアロ性能を計測する際に用いられることが多い計測方法にはなります。
具体的には、以下の手順で行われます。
- ブレーキをかけずに走行できる、30秒から5分程度の周回コースを用意。風の影響を避けるため、無風状態に近い場所であることが理想的
- 用意したコースを複数回(少なくとも3周、理想は5~6周)走行します。走行中は、パワーを一定に保つのではなく、変動させながら走行します。空気抵抗に影響がある為、同じポジションを維持することが重要。
- スピードセンサーやパワーメーター、高度計を使用してデータを収集し、エアロダイナミクス(CdA値)や転がり抵抗を確認
これを複数のタイヤでそれぞれ計測することで、真の転がり抵抗値を推測するわけですが、リアルな環境に近いが故に、条件を揃えることが難しくなります。当然、様々な条件で得られるデータをもとに推測をすることになりますので、一定の距離と時間をかければ「おおよそ似たような比較データ」を取得することは可能になりますが、100%条件を揃えることはできませんからね。
別の計測方法その2「ロールダウン・メソッド」
もう少しシンプルな計測方法にロールダウンメソッドがあります。その名の通り「タイヤを転がして抵抗を計測する」やり方になりますが、坂道を転がすやり方や、平坦な場所でタイヤを転がして計測するやり方などがあります。
ロードバイク用タイヤの場合は、坂道を転がすやり方の方が親和性は高そうです。
- 風の影響のない坂道にてテストを実施
- タイヤの設置部分にマーカーなどで印をつけ、ポジションを揃えて自転車に乗り、タイヤに荷重した状態でタイヤが同一回数回転した際の距離を計測する
- 加えて、坂道を乗車姿勢で下り、停止するまでの距離または時間を計測する
- これを複数回実施し、平均値を算出する
かなーり地味な作業になりそうですね・・・。これもまた地味な作業ではありますが環境を同一に揃える(坂道を下る際にひたすら真っ直ぐ下るわけで、ハンドルをできるだけ切らないように揃える等)のが、なかなかに大変そうではあります。
完璧な計測方法はないけれど
こうやって、他の計測手法について調べてみると、スチールドラムテストがいかに「簡便でコスパの良い」計測方法なのかがよく分かりますね。
他のテスト方法だと、確実に「人手」がかなり必要になりそうです。また、その人手をかけないように機械化しようとすると、計測装置が巨大化してしまい、とてもコストが見合いそうにありません。
ロールダウンメソッドなどは、スキー場とまではいかずとも、一定距離の坂道の上にレールを敷設し、レールから自転車を吊り下げて固定する装置さえ用意できれば、そこまで人手をかけずに計測はできそうな気はしますが、そうなると「レールの抵抗値」が加わってしまい、新たな誤差が生まれることになるわけで、ほんとキリがなさそうです。
スチールドラムテストはタイヤメーカーにとってはとても便利な手法ではありますが、今の時代、それだけではタイヤの性能を語り切ることはできず。とはいえ、他のお手軽な計測手段が確立されているわけでもなく。
やっぱり、テストライダーに乗り比べてもらって、感覚的なレビュー記事を書いてもらう方が手っ取り早いのかもしれませんね・・・。
ま、その人がどこまで信用できるからという根本問題も生じてしまいますが。
















コメント
こんにちは
趣味でパワーメーター試験をしているものです。
ドラム直径で転がり抵抗が変わることは、まあそうなんだろうなと思っていました。
でもそれはヒステリシスロスとかではなくて、平坦路とドラム上では単純にタイヤの変形量が変わるからだと考えています↓
https://note.com/silicate_melt/n/nb4fdc5761849
ちなみに私はこんな風に実験しています。
意外と簡単にできますよ
タイヤの転がり抵抗の計測↓
https://note.com/silicate_melt/n/n4ce72ad5628b
エアロ性能の計測↓
https://note.com/silicate_melt/n/n8dbaa697bc34
>Silicate meltさん
かなり力の入ったテストですね!
私も過去実装で空気圧とスピード、振動の数値計測にチャレンジしたことがあるのですが、正直挫折してしまいました・笑
なかなか数値化してまとめて検証するのって、大変ですよね。大変興味深く読ませて頂きました。