最初は何がしたいのかよく分からん、と思いましたが、ようやく意図が理解できました。
チューブを入れて擬似チューブレスタイヤにしてしまう技
擬似チューブレスとは何か

チューブを入れるクリンチャータイヤの問題は何かというと、鋭利な釘等踏みつけてしまうと一発でタイヤを貫通してチューブに穴を空けてしまい、瞬時にパンクしてしまう点。
これがチューブレスタイヤだと、タイヤに穴が空いたとしても内部に充填されたシーラントが穴を塞いでパンクを防いでくれます。
例えシーラントで塞げない様な大きな穴が空いたとしても、空気は徐々に抜けていきますので、自転車のコントロールを失うような危険な状況にはなりにくいのが、チューブレスタイヤの最大のメリットされています。
当然この他にも低圧運用による乗り心地の改善といった話はありますが、快適性よりも安全性の方が重視されるという点からは、チューブレスタイヤ+シーラントは、チューブ+クリンチャータイヤよりも優れているよね、という考え方があります。
で、チューブ+クリンチャータイヤでも、チューブレスタイヤと同じようなパンクに伴うリスクを低減してみました、というのが「擬似チューブレス」になります。
解決したい課題はあくまでも「パンク」の防止
で、この「擬似チューブレス」にチャレンジしてみたのが、サイクル誌の技術編集者兼フレームビルダー、リチャード・ハレット氏。
元記事はこちらになります。
記事タイトルは、「自転車のパンクを減らす方法」となっています。
ざざっと記事の内容をまとめるとこんな感じになります。
- パンクの悩みは自転車に乗る者にとって避けがたいものですが、近年チューブレスタイヤの普及によりパンクのリスクを大幅に軽減できるようになった
- とはいえ、「チューブド」なクリンチャータイヤを使っているユーザーは相変わらずパンクリスクに悩まされている
- そもそもチューブレスタイヤの運用の為にはタイヤを変えるだけではなく、ホイールもチューブレスタイヤに対応したものを選ぶ必要がある
- その悩みを解決する為に「擬似チューブレス」と呼ぶ技を開発した
- 擬似チューブレスは、通常のクリンチャータイヤの内側に接着剤でチューブを固定し、バルブコアを外してチューブの中にシーラントを封入する手法
- この構造により、パンク穴が開いた際にシーラントが穴を素早く塞ぎ、パンクを未然に防ぐ効果を発揮する。通常のチューブ入りタイヤよりもシール能力が高く、従来のチューブレスタイヤのようなパンク防止効果を得られる点が特徴
何とも荒技ですねー。
クリンチャータイヤでもシーラントを使えるようにするのがポイント
タイヤに穴が空いた時にパンクを防ぐ為にはシーラントが重要な役割を果たしてくれるわけですが、ロードバイクのインナーチューブの「中に」シーラントを入れたとしても、ロードバイク用のチューブは薄く、チューブ内の空気圧も高いことから、シーラントはその穴をなかなか防いではくれません。
おそらく、チューブに空いた穴からシーラントが盛大に吹き出し、チューブとクリンチャータイヤの間の空間にシーラントがこぼれ出して終わることでしょう。
これを解決する為に、チューブとタイヤを接着してしまおう、と考えたわけです。
タイヤにチューブが密着していれば、タイヤとチューブを貫通した穴からシーラントが吹き出して、外側のタイヤの穴を防いでくれる、というわけですね。
確かに、理にかなっています。
擬似チューブレスタイヤのセットアップ方法
以下がセットアップ手順。
- 接着不良の原因となりうる残留離型剤を除去するためタイヤの内側を洗浄し、タルクを除去するためチューブも洗浄し、乾燥させる。洗浄にはカーシャンプーと水洗いでOK
- 理想的にはタイヤを裏返し、タイヤ内面とチューブが接着しやすい状態にします。タイヤを固定できる適切な台があれば作業は楽になります
- タイヤの内側表面に、外側のトレッド面対応対応する範囲にチューブラー用接着剤を薄く塗布します
- 接着剤がやや粘着性を持つまで乾燥させる。チューブには接着剤を塗布しないように注意
- タイヤを正しいトレッド外向きの形状に戻します。チューブを軽く膨らませて形状を保たせつつ膨張させず、タイヤポケット内に挿入します。タイヤ内に軽く収まる状態にしておきます
- ホイールをタイヤとチューブの内側に置き、バルブをリム穴に挿入します。その後、通常のタイヤとチューブを取り付けるように、各ビードを順番にリムの内側に嵌め込みます。チューブはタイヤ内に収まっているはずですが、接着されたタイヤ内面には接触していない状態です
- タイヤがリム周りで均等に配置されていることを確認し、チューブを約20psiまで膨らませます。目的は、チューブがねじれや折れ曲がりなくタイヤ内側に広がり、タイヤが歪まないようにすることです。タイヤビードが正しく装着され、タイヤが真円に回転することを確認したら、完全に膨らませます。これによりチューブがタイヤ内側にしっかりと密着します
- タイヤの空気を抜き、バルブコアを取り外し、シーラントを追加します。通常量の約半分で十分。タイヤとリムの接合部やタイヤサイドウォールの微細な孔を密封する必要がないためです。好みの空気圧まで充填し、走行してください
これで、タイヤのトレッド面に対応したタイヤ内部にはチューブが接着される形になりますので、トレッドを貫通した釘であれば、即座にシーラントが穴を防いでくれることになります。
当然、チューブが接着されていないサイドウォールだとうまくいかないとは思いますが、何かを踏みつけて発生するパンクについてであれば、目的は達成されることでしょう。
効果について
ハレット氏はこの方法で1万マイル以上走行し、多くの使用者からも高評価を得ており、複数の棘が刺さったまま長期間空気漏れがなかった例などが報告されているとのことで、「パンクによるリスクを低減させる」という観点からは、かなり効果が上がっているようです。
擬似チューブレスのメリット
なかなかに興味深い対策ではありますね。一義的なメリットとしては、クリンチャータイヤでもシーラントによるパンクリスクを低減させることができるわけなのですが、それ以外にも付随効果があります。
- チューブレスタイヤに対応していない古いホイールでも、擬似チューブレスに対応させることができる
- クリンチャータイヤであれば、どのタイヤであっても対応可能
- 使用するシーラントの量が少量で済む
- パンクに合わなかった場合、シーラントはチューブ内部にとどまっている為、タイヤ交換時にシーラントで手が汚れることがない
- シーラントで防げないようなサイドカットの場合は、予備のチューブに入れ替えれば通常のクリンチャータイヤとして対処することが可能
最初は「そんな手間のかかることわざわざやらんでも、チューブレスタイヤ使えばええやん」と思っていたのですが、古いホイールでも、どんなクリンチャータイヤでも擬似チューブレス化できるというのは、ちょっとすごいかもしれません。
注意点
ただ、当然良いことばかりではありません。
- 扱いとしてはあくまでもクリンチャータイヤであり、チューブレスタイヤのような低圧運用には適さない為、乗り心地はあくまでもクリンチャータイヤのまま
- リム打ちパンクについては、通常のチューブドのタイヤと同じリスク。チューブレスタイヤでも衝撃が大きいとリム打ちは起きますが、クリンチャータイヤよりはリム打ちパンクのリスクは低くなるので、この点でも擬似チューブレスには限界あり
- シーラントが穴を塞いでくれるようになるだけであり、パンクの発生頻度を下げることはない
要するに、「擬似」チューブレスと言いつつも、内容はクリンチャータイヤと何ら変わりはありませんので、過剰な期待は禁物、といったところですね。
チューブレスタイヤを使っている人であれば、何もわざわざこのようなやり方に手を出す必要はないと思います。
擬似チューブレスに賛同するローディーがいるとするなら、それは「今でもクリンチャータイヤとチューブにこだわっているローディー」でしょうね。
チューブをタイヤに接着する為に幾つか面倒な手順が増えてしまいますが、高速ダウンヒル中にパンクに合った経験のある人であれば、擬似チューブレスの価値を理解できるのではないでしょうか。
私も一度高速の下り坂でパンクを経験したことがありますが、ほんと死ぬかと思いましたからね・・・。
チューブレスタイヤでは「パンクしても一気に空気が抜けない」という安心感は計り知れないものがありますので、クリンチャータイヤでもパンクに伴う事故リスクを低減したい、という人はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。


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