自転車業界はアグレッシブなレースモデルばかり売りつけているのか?

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先日、刺激的なタイトルの記事が出ていました。
自転車業界は、自転車を購入する人にアグレッシブ過ぎるバイクを売りつけており、多くのサイクリストが本当に必要としているバイクを売っていないのか?という内容です。

先日も「レースバイク」と「ロードバイク」は似て非なるものであり、現実世界(特に路面の舗装状態が日本ほどではない海外)ではレースのみに特化したバイクであり、区別すべきだ、という記事もありました。

カメラ業界でもそうですが、プロが使っているものと同じものを「お金を出しさえすれば」使うことのできる世界では、常にこういった議論がありますよね。

今の自転車業界で必要とされているものは何なのか

1. 自転車レース人口は順調に増えている

まず、英国のレースライセンス保有者についてですが、ブリティッシュサイクリングに登録されている会員数は2012年には64,000人、レースライセンスの保有者は21,000人でした。

このブリティッシュサイクリングですが、登録をすると、自転車関連用品の購入が割引されたり、自転車保険がついてきたりするサービスを提供しています。
また、レースライセンスを保有すると、各種イベントへの優先参加権を得ることができるようになります。

その会員数が、2022年には15万人(2.34倍)に、レースライセンスは26,500人(1.26倍)に増加しています。

10年間の伸びとしては、レースライセンスは順当なことろですが、会員総数は倍以上に増えていますので、サイクリスト人口は確実に増えていると捉えて良さそうです。

ただ、ここで注目すべきなのは、「シリアスレーサーよりもホビーライダーの方が確実に多い」という状況なわけで。

 

 

このようにサイクリストの層が変化していく中で、サイクリング業界が誘導する自転車と、実際にお客様の体やライディングニーズに合った自転車との間にズレが生じているのでしょうか。結局のところ、どんな人間も、相当な努力とトレーニングなしに、アグレッシブなレースポジションに身体を折り曲げられるようにはできていないのです。

 

こんな疑問を投げかけているんですね。

2. 自転車を買いに来る2種類の人種について

そもそもロードバイクには大きくジオメトリーの側面からは2つの方向性があります。

  • レースジオメトリー:長いリーチと低いスタックを持ち、体幹をより水平にし、重心を低くすることで、より空気力学的で操縦性の高いバイクを実現。ハンドリングはよりクイックで軽快になる
  • エンデュランスジオメトリー:スタックが高くリーチが短いため、より直立した姿勢になり、柔軟性と体幹の安定性への要求が少なく、ハンドリングはより安定しコントロールしやすいバイクとなる

この記事では、あるバイクフィッターの元に来るサイクリストにも、大きく2種類の傾向があると説明されています。

  • ライダーA:「最高のバイク」はプロが乗っているものだと考え、軽量性が重視されるショートスタック/ロングリーチのジオメトリーを購入しようとする。このようなライダーは、プロの真似をして購入しており、バイクフィッティングを第一に考える哲学をあまり理解していない
  • ライダーB:流行やルールに捉われることなく、他者のアドバイスを尊重し、自分の身体的特徴やライディングの目的に合わせて、ロードバイクを広い選択肢の中から選んで購入しようとする

おー・・・。

「プロが乗っている」かどうかは知りませんでしたが、見た目の格好良さに惹かれてレースモデルのピナレロを購入した私は、まさにライダーAですね・笑

で、このサイクリストの比率がどれくらいかというと、ライダーBが1人に対して、ライダーAが5人の割合なんだそうです。

なんか、分かる気がします・・・。

「EOSの一桁に白レンズ買っておけば良いんでしょ」とか「ニコンにあらずばカメラにあらず」みたいな以前のカメラ業界も同じでしたよね。
(いや、私はキヤノンもニコンも好きで使っていましたよ?)

実際に購入を希望するケースに関しても、より実態に即したエンデュランスモデルよりも、レースモデルのフレームを希望する割合が多いようで。

スポーツ走行や友人とのロングライドを楽しむことが多いのでは?という購入希望者に対して、空気抵抗よりも快適性を重視したフレームの方が良いですよ?と説明するのに多くの時間を割かれるそうです。

なんか、分かる気がします。

3. 無知な購入者が問題なのか、ショップに責任かあるのか

では誰に責任があるのでしょうか?

ロードバイクを製造するメーカーは、エンデュランスバイクからレースバイクまで、購入者のニーズに合わせて複数ラインナップされています。
最近では、よりアップライトなポジションが取れるグラベルバイクもラインナップに追加されるようになりました。

その点からは、メーカー側には責任はなさそうに思えます。

ロードバイクを購入しようとするサイクリスト候補に問題があるのでしょうか?

これは難しいですよね。
どうしたって最初は誰でも素人なわけで。
情報の非対称性のある領域において、無知な購入者を「知らなかったお前が悪い」と決めつけるのは簡単なことではありますが、あまりフェアではありません。

私もジオメトリーの何たるかは頭では理解していましたが、実際に腹落ちして理解できるようになるまでには、ロードバイクに乗るようになってから4年以上はかかった気がします。
(お前の理解が遅いだけやろ、というツッコミは甘んじて受けますが・汗)

丁寧に説明をしないショップ側に責任があるのでしょうか?

確かに、在庫をさばきたいショップ側からすると、顧客が気に入ったというバイクが目の前にある以上、「(実はエモンダよりもドマーネの方がお勧めなんだけど)エモンダは良いバイクですし、お客様の身長にも合うサイズですね」と販売してしまうこともあるでしょう。

彼らにも売上目標がありますし、生活がかかっているわけであまり責めることもできないような気もします。

ほんと、誰か一人が悪いわけではないんですよね、きっと。

では、もっとラインナップをサイクリスト人口に合わせてエンデュランスモデル寄りにしたら良いではないか!という指摘もあるでしょうが、サイクリストの啓蒙が進まない限りは、そのメーカーの売上が落ちるだけでしょうし。

元記事では、自分に合わないバイクを買ってしまったとして、ステムを交換したりハンドル位置を調整することで乗れるようになったとしても、それはそのバイク本来の個性を「殺した」乗り方になる可能性もあるわけで、やはり自分の志向に合ったジオメトリーのバイクを購入することが一番重要だ、という形で締めくくっています。

そりゃそうだ。

ただ、やはり一番の問題は、先に挙げた「ライダーA」には、その記事の意図も届かないんだろうな、という点ですよね。

ということで、個人的な見解ですが。
もっと見た目が格好良く、誰もが一目見たら欲しがるようなエンデュランスモデルを、各社もっと作って頂きたいな、と。

ビアンキさん、2022年モデルはオルトれは格好良いのに、インフィニートCV、ずば抜けて格好悪いですよ。

スペシャライズドのエートスとか、「純粋に走りを楽しむ」といったコンセプトのバイクがもっと増えてくれたら嬉しいですね。

 

コメント

  1. たかにぃ より:

    実際の販売台数はエンデュランスモデル>>コンペティションモデルです。
    たとえばスペシャライズドだと稼ぎ頭はレース向きのターマックではなく、ロングライド・悪路向けのルーベだし、トレックでもドマーネのほうが遥かに売れています。グループライドで集まってくる車種を見ても明らかです。
    ネットだとどうしてもレース中心になるし、レースも自転車を売るためのものでもあるので、情報量はコンペティションのほうが遥かに多いですが、実態はそんなものです。

  2. おとーさん より:

    >たかにぃさん
    販売台数はそうだと思いますが、ラインナップ、選択肢はレースモデルが多いですよね。
    結果、ショップに並ぶレースモデルとエンデュランスモデルの比率は、実態とは乖離するわけで。
    ピュアレースでないモデルがもっと増えると良いな、とは思いますね。

  3. 通りすがり より:

    エンデュランスとかレースモデルとか、そもそも私には切り分けがわかりません。欲しいモノを買う、のが正義だと思います。UCI公認であれば105コンポのカーボンモデル30万円をガシガシレースに使うか、のんびりツーリングに使うかは買い手の自由ではないでしょうか? 欲しかったものだからこそお金を出すし、愛着が湧くのでは?
    私がいつもお邪魔してるショップでは、きちんとフィッティングをして、欲しい「ブランド」のフレームに落とし込んでいきます。売りっぱなしのチェーン店で痛い目にもあいましたが。
    F1みたいな立ち位置のグランツールなどで使われる「プロ」機材は、快適でストレスが無く、雑味も少ない物です。でなければ毎日200kmも走れないのではありませんか? 私が3台持ってる内の2台はロングライドでも非常に快適です。その反面、妻が乗ってる廉価版はタイヤからして振動が酷くてビックリしました。
    サイズとかジオメトリーが…の解決策は、オーダーのフレームが一番です。ぱっと見は「ウケない」ですが、身体をキチンと採寸し、方向性をすり合わせながら作ってもらった1台は、「プロ」モデルと遜色ありません。クロモリに塗装込みで15万円は安いです。高いと思って二の足を踏む方が多いのは「もったいない」です。

  4. あわ爺 より:

    これってメーカーだけじゃ無くてコンポにも言えますよね(というかシ◯ノ)今でこそギア比は低くなったもののひと昔前はフロント52-39リア11-25が標準で当時はこんなもんかと思っていましたがちゃんとユーザー目線で開発していれば低ギアの声はあったでしょう。当時から他社からはコンパクトクランクもありましたが結局シマノはなかなか出さなかった。しかも出したのもユーザー主導の結果でもありませんしね。巨人故に動きが遅いのは仕方ないのかも知れませんし、性能は文句の付けようが無いが「自転車を楽しむ」って事に欠ける企業で応援する気になる無い。勝手なイメージでしか無いが従業員で自転車を楽しんでる割合はSR◯Mとかに比べたるめちゃくちゃ少ないんだろうなぁ

  5. ビアンキ好きだけど より:

    「2022年モデルはオルトれは格好良いのに、インフィニートCV、ずば抜けて格好悪い」で吹いてしまいました。まさにそう思います。下位モデルのインフィニートXEの方が、デザイン的には私の購買意欲をそそります。

  6. おとーさん より:

    >あわ爺さん
    仰る通りかと思います。
    とっっっても偉そうな物言いになりますが、シマノさん、未だに「良いモノを作れば良いんでしょ?」という発想から抜けられていない気がしてなりません。
    そして、その「良いモノ」はレースシーンを第一義に考えているのではないかと。
    ホビーライダーのUXを考えたら、14-32とか、14-34といったスプロケットなんてある程度需要あると思うんですよね。
    そういった層、マーケットへのアクセスって難しいと思うので、製品開発やマーケティングが難しいと思うのですが、社員が(レースシーンではなく)週末ライドで楽しめる製品、という形で開発してくれると楽しいんだろうな、と思ったりします。

  7. おとーさん より:

    >ビアンキ好きだけどさん
    そこ、拾ってしまいますか・笑
    同意見の方がいて心強いです。
    2022年モデル、オルトレと同じデザインだったら、次期バイクの最有力候補だったんですよねー・・・。

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