耳に電気を流すとVO2MAXが向上するらしい

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タイトルだけ見ると、めっっっっちゃ胡散臭いですよね。

 

迷走神経刺激(VNS)がサイクリングのパフォーマンスに与える影響について

耳に微弱な電気を流すと、VO2MAXといったパフォーマンス向上が確認された、という研究が報告されています。

Watts in your ears: Could vagus nerve stimulation make you faster?
Could tickling your ears with electricity really boost your VO2max? Simon Fellows investigates the strange but promising...

実施された実験内容について

実験は、主に経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)と呼ばれる手法を用いて行われました。これは、外科手術を伴わず、耳の特定の部位(外耳道の耳珠など)に微弱な電流を流すデバイスを使用するものだそうです。

被験者

慢性疾患のない健康な若年〜中年の男女28名のボランティアに実施。

刺激プロトコル

7日間にわたり、毎日30分間の刺激を実施。
具体的には、両耳の迷走神経末端に電気刺激を与える「本物の刺激(taVNS)」と、刺激を与えない「偽(シャム)刺激」の2パターンを、同じ被験者が期間を空けて両方体験するクロスオーバー方式にて実施。

運動負荷テスト

刺激がパフォーマンスにどのような影響を与えたかを検証する為、刺激期間の前後で、自転車エルゴメーターを用いた漸増負荷試験(限界まで漕ぎ続けるテスト)を実施。

VO2 max(最大酸素摂取量)、最大心拍数、最大出力(ワット数)などを測定。

検証結果について

実験の結果、迷走神経刺激を受けたグループには、身体能力の有意な向上が確認されたそうです。

  • VO2 maxの向上:
    7日間のtaVNSにより、VO2 maxが平均で1.04 mL/kg/min向上しました。一方、偽刺激グループでは変化が見られませんでした。

  • パワー出力の増加:
    最大負荷時の出力(ワークレート)が平均で6ワット増加しました。

  • 心肺機能の変化:
    最大運動時の心拍数が約4拍/分、呼吸数が約4回/分増加しました。これは、体がより高い負荷に耐えられるようになった(限界値が引き上げられた)可能性を示唆しています。

  • 抗炎症効果:
    血液検査の結果、炎症を引き起こすサイトカインのレベルが抑制されていることが確認されました。これにより、ハードなトレーニングからの回復が早まる可能性が指摘されています。

まじっすか。
こんなん、レース出場者向けの電気デバイスとか発売されそうな内容じゃないですか。

そもそも本実験の目的について

将来的にアスリートに対しても実施して頂きたい気がしますが、もともとの実験の目的はアスリートのパフォーマンス向上を図る為のものではありません。

「運動のリミッター」を脳から外すメカニズムの解明

従来のスポーツ科学では、パフォーマンスの限界は「肺や筋肉の物理的な限界」にあると考えられてきました。しかし、この研究は「脳と心臓をつなぐ迷走神経」を刺激することで、脳が身体に課している「疲労のブレーキ」を緩和できるのではないかという仮説を検証するために行われました。

「運動を模倣する」新たな治療法の開発

運動には「炎症を抑え、心肺機能を高める」という優れた効果がありますが、心疾患などの患者は、その効果を得るための「十分な強度の運動」自体ができません。

耳への電気刺激(VNS)によって、実際に運動している時と同じような神経活動や抗炎症反応を引き起こし、運動なし(あるいは軽い運動のみ)で心肺機能を改善させる「デジタル薬」のような手法を確立することができるのか?といった点が本来の目的となっています。

非侵襲的な(体を傷つけない)パフォーマンス向上の確立

以前の迷走神経刺激は、外科手術で体内にデバイスを埋め込む必要がありました。

今回の実験では、「耳にクリップを挟むだけ」という非侵襲的な手法(taVNS)で、どこまで劇的な生理学的変化が起きるのかを確かめることが重要な目的でした。これが実証されれば、安価で安全な健康増進ツールとして普及させやすいためです。

とはいえサイクリストのパフォーマンス向上の可能性も

ということで、本実験の本質的な目的は、「神経系をハックすることで、運動が困難な人の心肺機能を改善し、心血管疾患の治療や予防に役立てる」という医学的イノベーションの検証にあるわけですが、実験結果を見るとやはり期待してしまいますよね。

今回の実験は、まだまだ被験者の母数が少ないこともありあくまでもPOC的な位置付けにとどまっているようですし、そもそも今回のパフォーマンス向上が、「脳が疲労を感じにくくなった(メンタル的なリミッターが外れた)」ことによるものか、あるいは「心肺機能の効率が物理的に向上した」ことによるものか、そのメカニズムの詳細はまだ完全には解明されていないとのことで、まだまだ発展途上。

EMS(電気筋肉刺激)技術も、20世紀初頭に医療用電気刺激の原理が確立された後、宇宙飛行士の筋肉維持やリハビリ向け医療機器として発展し、1971年にソ連でトレーニング効果が証明され普及、今ではSIXPADなどが家庭用腹筋ベルトへと展開されています。

今回の実験結果についても、EMS技術のように将来的に「ドーピングに抵触しない合法的な能力向上ツール」になる可能性もありますし、家庭用の安価なデバイスで同様の効果が得られる日が来たりして?なんて妄想するのも楽しいもので。

ちょっとわくわくするお話でした。

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