【続報】SRAMの「10T」を巡る泥沼のギア比規制闘争が完全決着

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これでSRAMも安心、といったところでしょうか。

UCIによる最大ギア比規制をベルギー競争庁が完全否定

昨年10月、UCI(国際自転車競技連合)が安全対策を名目に導入しようとしていた「最大ギア比規制(54×11T相当への制限)」に対し、ベルギー競争庁(BCA)が待ったをかけ、SRAMが第一ラウンドを制したというお話をしました。

UCIのギア比規制は認められずSRAMが勝利
9月から繰り広げられていたSRAMとUCIのギア比規制に関する闘争ですが、第一ラウンドはSRAMの勝利となりました。ベルギー裁判所はSRAMの主張を認めUCIギア比規制の撤回を求めるおさらい〜UCIのギア比率規制についてまずはUCIが安全を...

当時、UCIはこの決定を不服として即座に上訴(控訴)する意向を示していましたが、この度、その上訴に対する最終的な裁定が下りました。結果から言うと、UCIの控訴は完全に棄却され、SRAMの全面勝訴となりました。

しかも今回の裁定、単なる「10Tスプロケットが守られた」という機材レベルの話にとどまらず、今後のスポーツ界のルール作りの在り方を根底から覆す、とんでもなく大きな意味を持つことになりました。今回下された新たな裁定の中身と、海外メディアや専門家の反応を詳しく掘り下げてみたいと思います。

UCIの「最大ギア比規制」とは何だったのか?

まずは事の発端となったUCIの規制案について、軽く振り返っておきましょう。

UCIの安全委員会「SafeR」が主導したこの規制は、プロ集団(ペロトン)のスピードが出過ぎるのを抑え、下り坂やスプリントでの重大落車を防ぐという名目で提案されたものでした。 具体的には、クランク1回転で進む距離を「54×11T(ギア比4.91)」相当(約10.46メートル)に制限するというもの。

一見、安全のためのルールに見えますが、これが施行されるとSRAMの現行コンポーネント(REDやForce AXS)のアイデンティティである「トップ10T」のスプロケットが事実上、完全に排除されてしまうという致命的な問題を抱えていました。シマノ(トップ11T)には影響がない一方で、SRAMを採用するヴィズマ・リースアバイクやリドル・トレックといった強豪チームが一方的に不利益を被るため、「SRAM狙い撃ちの不公平な規制だ」と業界内で猛反発が起きていたわけです。

BCA(ベルギー競争庁)による「第1審」の判断

これに対し、SRAMは「イノベーションを阻害し、不公平な競争環境を生み出す」として、ベルギーの競争当局であるBCAに規制の差し止めを求めて提訴。

昨年10月、BCAはSRAMの主張を全面的に認め、「安全という目的は理解できるが、ルール策定のプロセスに客観性や透明性、非差別性が欠けている。SRAM側に修復困難な損害を与える」として、UCIに規制の即時停止を命じました。

これに驚き、不満を露わにしたUCIは、「安全対策への不当な介入だ」と主張し、ブリュッセル控訴裁判所へ即座に上訴していました。これがこれまでの流れです。

今回の最終裁定の「本当の重み」について

そして今回、ブリュッセル控訴裁判所が出した結論は、「UCIの控訴をあらゆる文脈において全面的に却下する」という、UCIにとってはぐうの音も出ないほどの完敗でした。

SRAMのCEOであるケン・ラウスバーグ氏は、今回の勝利を受けて「この件は我が社の10Tコグ(歯)を巡る争いから始まったが、今回の判決が持つ意味はそれよりも遥かに大きい」と語っています。

なぜそこまで大きいと言えるのか。裁判所は今回の判決で、EUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所の判例を引き合いに出し、以下のような強烈なメッセージをUCI(そしてすべてのスポーツ連盟)に突きつけたからです。

  • 「安全対策」という大義名分を掲げれば、どんな不透明なプロセスでルールを決めても良いわけではない。

  • ヨーロッパのスポーツ団体が規制権限を行使する際は、「オープン、透明、客観的、かつ非差別的」なガバナンスを維持することが法的な義務である。

つまり、「安全のためだから黙って従え」というUCIの独裁的なルール作りの手法そのものが、法律によって真っ向から否定されたわけです。

ラウスバーグCEOは、「今後は、自転車産業のニュートラルな声である世界スポーツ用品工業連盟(WFSGI)をフルパートナーとしてルール策定に巻き込み、チーム、選手、主催者全員で開かれた議論をするプロセス(改革)を今すぐ始めるべきだ」と提唱し、勝利の先にある業界の民主化へ向けて強い意欲を示しています。

海外メディアや専門家の反応

この歴史的な判決を受け、海外の自転車メディアや機材の専門家たちからは、UCIの規制の妥当性や今後のガバナンスに対する様々な意見が飛び交っています。

機材・パフォーマンス専門家の視点(AeroCoach:ザビエル・ディスレイ博士)

サイクリングのパフォーマンス分析の第一人者であるAeroCoachのザビエル・ディスレイ博士は、英Cycling Weeklyの取材に対し、そもそもUCIの「ギア比を制限すれば安全になる」という科学的根拠そのものに疑問を呈しています。

「一番の懸念は、ギア比を制限するとトップスピードの手前で頭打ち(飽和状態)になってしまう点だ。

もしUCIが下り坂でのスピードを心配しているのだとしたら、この規制は何の意味もない。なぜなら選手たちは、制限された最大ギアでペダリングするよりも、足を止めて(エアロフォームで)惰性で下る方が遥かに速いスピードを出しているからだ。

また、ゴールスプリントにおいては、全員が同じ最大ケイデンス付近で頭打ちになるため、かえって集団が縦に伸びず、密集(密集度が高まる)してしまう。さらに、選手が自分の望むケイデンスよりも遥かに高い回転数で狂ったようにペダルを回さなければならなくなるため、バイクの挙動が不安定になり、スプリントの危険性はむしろ増すだろう。下りでもスプリントでも、安全に寄与するとは思えない。」

このように、専門家からは「現場の物理や科学を無視した机上の空論」とバッサリ切り捨てられています。

海外主要メディアの反応

海外の主要サイクルメディアの論調をまとめると、今回の件は「安全vs技術革新」の戦いというよりも、「UCIの独裁的な体質に対する、EU法によるお仕置き」という捉え方が強まっています。

UCIはこれまでにも、パリ〜ルーベ直前に前触れもなく「タイヤ空気圧管理システム」の使用を禁止してチームを激怒させたり、全英ロード選手権の現場で「ハンドル幅の制限」を急に厳格化して選手を混乱させたりと、現場やメーカーへの事前相談なしにルールを上から押し付ける悪癖がありました。

今回のメディアの報道からは、「ついにメーカー(SRAM)が法的な手段でUCIの暴走を止める前例を作った」「今回の判決は、今後のハンドル幅規制やフックレスリム規制など、あらゆる機材コントロールの在り方に影響を与える基準(ベンチマーク)になるだろう」という、UCIのガバナンス改革を期待する見方が大半を占めています。

まとめ:これからの自転車業界に求められるもの

今回のSRAMの完全勝利によって、私たちが大好きなロードバイクのテクノロジーが、特定の団体の不透明な都合によって突然奪われるリスクは一旦回避されました。

もちろん、選手の安全を守ることは最優先事項です。しかし、ディスレイ博士の指摘通り、科学的な検証や現場の声、そして機材を開発するメーカーとの対話(コラボレーション)なしに作られたルールは、安全をもたらさないばかりか、競技そのものの魅力やイノベーションを損なってしまいます。

今回の「10Tを巡る闘争」の終結が、UCIが一歩下がり、メーカーやチームと手を取り合って「安全かつエキサイティングなロードレースの未来」を築くためのターニングポイントになることを切に願います。

ほんと、業界団体ってのは、どこの国でもあれこれ問題抱えているものですね・・・。

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