今年購入したケルビムの Sticky。
気がつけば納車から1000km走ったこともあり、この辺りでインプレッションをまとめてみようかと思います。
クロモリロードバイクに関しては、そりゃもう「文学的」と呼べるほど奥の深いレビューが多く存在しますので、正直筆が進まないというのが正直なところなのですが・・・。
結論から言うと、そりゃもう「最高」の一言に尽きるのですが、クロモリフレームの「しなり」の奥深さを感じています。
■ CHERUBIM Sticky (ケルビム スティッキー)ファーストインプレッション
1. クロモリフレームの重量について
ケルビムはフレームオーダーになりますので、各社よくあるような「フレームサイズ」という概念がそもそもありません。
参考になるものとしては、私のフレームのシートチューブ長が526.8mm、トップチューブ長が540mmとなっていますので、例えば私が以前乗っていたピナレロの GAN Sで言うと515と530 の間くらいのサイズ感でしょうか。
今回はフレーム単体で重量を計測はしていないのですが、購入時の各パーツは基本的に自分で購入していったものになりますので、完成車から各パーツ類を逆算して求めたところ、「フレームが1420g、フォークが310g」となりました。
今まで乗っていたピナレロ GAN S が重量は公表されていませんが、個人が実測した重量としてフレームとフォークがセットで約1590gという記事がありましたので、140gの重量増。
いかがでしょうか?
ちょっと意外に思った方もいるのではないでしょうか?
フレームとフォーク全てがクロモリ製のロードバイクだと、合わせて2500gになることもありますので、一般論として「クロモリフレームにすると、カーボンよりも+1000g」みたいな話をよく聞くと思うのですが、ダウンチューブに細身のパイプを採用している Sticky の場合、フォークをカーボン製にしてしまえば、実は重量増はそこまで大きくはありません。
完成車重量ですが、コンポは SRAM Force AXS eTap、ホイールはシャマルウルトラでペダル込みの重量で約7.9kg。
ピナレロ GAN Sの完成車重量が約7.7kg(ペダル込み)でしたので、カーボンからクロモリに乗り換えたにも関わらず重量増は大きくありません。
クロモリフレームで、各社ハイエンドコンポでない状態で 8kgを切れるのですから、十分軽量なクロモリフレームかと思います。
2. 漕ぎ出し・登坂性能
車体重量がそこまで大きく増えていませんので、予想していた通り、重量増に関連するようなネガティブな印象はほぼありませんでした。
ゼロスタートからの漕ぎ出しでいうと、フレームに一定の剛性さえあれば、ほとんどホイールの影響が大きいのではないかと思いますが、ピナレロにシャマルウルトラを履かせた時と、ほぼ同じ印象で、「とても軽い漕ぎ出し」となっています。
以前、クロモリフレーム、クロモリフォークで Sticky と同じように「細身のパイプ」が売りのバイクに乗ったことがありますが、フレームもフォークも剛性が低く、漕ぎ出しが「よいしょ」と重いバイクがありました。
Sticky に関しては、そんなネガティブな印象は一切ありませんでした。
登坂性能に関してはどうでしょうか?
重いクロモリロードだと上りが苦手、みたいな話を聞くことがありますが、正直全く問題ありませんでした。
Sticky が納車されてから、和田峠、時坂峠、半原越、ヤビツ峠と近場の峠まで出掛けていきましたが、私の場合はピナレロ GAN Sよりも上りのリズムを作りやすい Stickyの方が登りが楽に感じました。
タイムを計測していませんので、実は登坂速度はピナレロ GAN S の方が上という可能性もないわけではありませんが、体感では「速くなった」「遅くなった」といった印象はありませんでした。
クロモリ独特な「しなり」からくるリズムが、ペダリングのリズムと合わせやすいこともあり、ケイデンスを70前後に落としてトルクをかけながら「ぐいっぐいっ」とペダルを回すと、気持ちよく登ることができました。
但し、下りのどっしり感、安定性に関してはピナレロ GAN S の方が上ですね。
フォークが太く重い分、安定性が高いのでしょうね。
この点はフレームというよりはフォークの影響かな?とも思います。
3. 巡行性能
カーボンフレームよりも明らかに上だと感じたのが、巡行性能の高さでした。
正確には巡行速度を「維持するのが楽」でした。
よく、クロモリフレームが生む「しなり」が、戻る際に生む力が推進力につながる、といった話があるようですが、それは物理的にあまり「ない」話だと思います。
基本的に、同じギア比でケイデンスを揃えた場合、速度は一定になります。
当然、フレームの剛性やエアロ性能の違いによって速度が前後することはあるでしょうが、必要なパワーはそこまで大きく変わらないはずです。
ですが、明らかにピナレロ GAN S よりも Sticky の方が巡行が「楽」なんですね。
独特なしなり感が、快適なペダリングのリズムにつながって「走りやすい」という感覚になる側面もあるのですが、もっと物理的、体感的な「楽さ」があるように感じています。
以下はあくまでも素人の感覚的なものになりますが、Sticky がなぜ巡行が楽なのかを考えてみました。
(1) トラクション
Sticky は「走りがスムーズ」というのが第一印象でした。
この言葉には色々な意味が込められています。
「路面からくる振動をうまく吸収、いなしてくれる」
「ペダルにトルクをかけた時に、とても自然に加速につなげてくれる」
これらは、トラクションの効率の高さからくるように感じています。
路面の凹凸からくる振動によりタイヤが跳ねてしまえば著しくトラクションが落ちてしまい、いくらペダルを回しても加速へとつながらないロスが多く生まれてしまいます。
Sticky は路面からくる振動をフレームでも綺麗に吸収してくれて、路面とのトラクションを常に高く維持してくれる印象があります。
これが「スムーズ」「シルキー」な走りにつながるのではないでしょうか。
(2) スイートスポットの広さ
こちらは、是非どこぞの研究機関で物理的に検証して頂きたいのですが・・・。
カーボンフレームは、ペダリングした際のスイートスポットが狭く、クロモリフレームはスイートスポットが広い、という印象があります。
カーボンフレームでは、「ペダルがxx時からxx時の間で、xx方向へxx%の力を入力した時に最大効率で推進力につなげてくれる」みたいな、「厳密さ」があるように感じています。
その為、ペダルが下死点に近いポイントで大きなトルクをかけてしまうと、カーボンフレームは冷徹に「そんな力は受け取れません」とそのほとんどを推進力に変えることなく無駄にされるだけでなく、逆に過剰にかけられたパワーをそのまま反作用で押し戻し、ペダルを通して足にダメージが返ってきます。
これがクロモリフレームの場合、カーボンフレームだと受け止めてくれないような雑な入力に対しても、ある程度はおおらかに、フレームが「しなる」ことでその力を受け止めてくれ、(さすがに全てとは言わないまでも)ある程度までは推進力に変えてくれる印象です。
ペダリングが上手な人であれば、何も問題にならないわけですが、もともとペダリングが雑だったり、ライド終盤で疲労からくる雑なペダリングに対して、クロモリフレームは懐広く受け止めてくれ、少しでも多く推進力に変えてくれるのです。
フレームのしなりが生み出す特性に感じているのですが、これ、物理的に検証してくれませんかね・・・。
BB周りの剛性が高いか低いか、というだけの問題でもなく、加えてフレームのしなりがこの辺りの「ペダルにかけられた力を推進力に変換する効率性」につながるわけですが、特に、「綺麗に入力された力」だけでなく「少し外れた雑な入力」を受け止める懐の広さの違いがあるんですよね。
個人的な体感としては、この辺りはクロモリとカーボンで大きな違いがあると感じています。
4. 快適性
クロモリフレームに変えると快適性が上がるのか?
カーボンフレームとクロモリフレーム、快適性が上なのはどちらなのか?
快適性に関する議論は多く交わされています。
また、その結論に関していうと、まさに「真逆」のレビュー結果が多く、判断に悩む点ではないでしょうか。
一般論として、クロモリフレームはその独特なしなりから快適性の高い素材と言われています。
それはその通りかと思いますが、エンデュランスロードと呼ばれるカーボンフレームに太いタイヤを履かせれば、それはもう極楽な乗り心地を実現してくれるわけで、何を比較するかによって結論は変わってくるかと思います。
私が乗っていた GAN S と Sticky の比較で言うなら、シンプルな路面から来る振動吸収性に関して言えば、ほぼ互角、わずかに Stikcy の方が上、という感想です。
ただ、こればかりはフレームサイズやパイプの種類によっても大きく変わってくるわけで。
例えば。
ガチガチのレーシングモデルのカーボンバイクに乗って、「カーボンフレームは言うほど乗り心地が良いわけではない」と主張する人がいたらどうでしょう?
たった一種類のバイクに乗っただけで、そのフレームの素材全てに対して評論するのは馬鹿げていますよね。
クロモリフレームだって同様です。
私も試乗でいくつものクロモリフレームに乗りましたが、快適性が高いものもあれば、アルミに近いような硬さをもったものもありました。
加えて。
一番快適性の高いクロモリフレームは、私にとっても剛性が十分ではなかったようで、加速の「溜め」が大きすぎて、ペダリングのリズムが全く合いませんでした。
ケイデンス70くらいでトルクを強めにかけてゆったり漕ぐとぐいぐい加速する性格だった為、街乗りにはとても良いバイクでしたが、週末のライドに連れ出す相棒としては微妙な性格でした。
逆にカーボンフレームでも、アップライト気味でタイヤも32cを履かせたあるバイクは、笑ってしまうほど快適性が高かったのですが、あまりにも「もっさり」していて、キビキビ走ることができずに乗っていて楽しく感じることができませんでした。
おそらく、快適性「だけ」を追求すれば、カーボンでもクロモリでも、乗り心地最高なバイクを作ることはできるのだと思いますが、そこに加速性や巡行性能などを加えていくと、結局はバイクごとに性格が異なってくる為、フレームの素材だけで何かを語ることは難しくなるのではないでしょうか。
クロモリフレームだから乗り心地が良い、というのは嘘だと思います。
ただ、私が購入したケルビムの Sticky に関していうと、「加速性能、巡行性能を高いレベルで維持したうえで、カーボンフレームと同等以上の快適性を有している」というのは、真実でした。
それでは、その快適性はどこから来るのでしょうか?
私の場合、以下の三点が挙げられます。
(1) 振動吸収性の高さ
まずは最も分かりやすい、振動吸収性の高さ。
路面の細かな凹凸は綺麗にいなして吸収してくれます。
この点に関しては、実際に試乗で比べてみるまではクロモリフォークの方が快適性が上かな?と考えていました。
実際には、低速域では全く問題にならないのですが、時速30km以上になると、むしろ大きな段差や少し荒れたアスファルトでは細身のクロモリフォークでは振動を吸収し切れず、不快な「揺れ」を感じることが多かった為、カーボンフォークを選択しています。
前輪からくる突き上げに関しては、チューブレスタイヤとカーボンハンドルの組み合わせもありますが、細かな段差を丁寧に吸収してくれますので、ライド後の上半身の疲労はとても少なく済んでいます。
ただ、この点に関していうと GAN S でも同様でしたので、実は大きな差はなさそうです。
対して、サドルからくる突き上げに関しては、GAN S よりも Sticky の方が「薄いカーペット一枚分」くらいの違いがありました。
100kmを超えるライドで、お尻にかかる負担は Sticky の方が少なくなりました。
(2) 適度な剛性のBB周り
個人的には、最も大きな差を感じたのがBB周りの剛性です。
これは前述したスイートスポットの広さの箇所でも記載しましたが、下手くそなペダリングで、ペダルを踏み抜くような力の掛け方をしても、足の裏に返ってくるダメージが少なくなりました。
ちょっと表現が極端ですが、例えば100kmのライドを走り終えると、GAN S では足の裏に疲労が溜まりましたし、峠道を走った際などは、足の裏が少し「じんじん」することがありました。
ポジションが最適化されるまでは、ライド中に足の裏に痺れが出ることもありましたので、基本的に私は「下死点でも無駄に力が入っている」ペダリングなのでしょう。
ライド前半は意識できるのですが、どうしてもライド後半になるとペダリングが雑になって足の裏にしびれが出ていました。
ポジションが最適化されてからは、さすがに足の裏にしびれが出ることはなくなりましたが、それでも疲労が溜まって「じんじん」することはありました。
これが Sticky になってからは、そのライド後の「じんじん」すらなくなりました。
BB周りの剛性が低くなると、良くも悪くも力が「逃げて」くれますので、足の裏に返ってくるダメージが減るのは分かるのですが、Sticky の場合は「ペダリングで力が逃げていく」感覚は全くないのに、過剰に入力されたトルクが足の裏に返ってくることがない、という「絶妙な」剛性になっています。
この点に最も感動しました。
以前は、100km / 1000mアップのライドから帰宅すると、足裏に溜まった疲労感からすぐには犬の散歩に行きたくなかったのですが、今では帰宅したその足で犬の散歩に出ることができるようになりました。
家族貢献度という意味でも、得点高いですね。
(3) 低速巡行の快適性
あと、これは少し角度の違う「快適性」なのですが。
GAN S の頃は、ライド終盤へとへとになった時には、正直時速何キロで走ろうと「しんどいものはしんどい」と感じていたのですが、Sticky の場合、時速25km程度の低速巡行だと、その高い巡行性能から、とても楽に走り続けることができるようになりました。
これも、個人的にはとても高評価でした。
足が売り切れた状態でも、ヘロヘロで息が上がった状態でも、低速で走る限りにおいては、Sticky なら走り続けることができるのです。
これも、「雑な入力も丁寧に推進力に変えてくれる」Sticky の良さだと感じています。
5. 気持ちへの変化
これもよく言われることかと思いますが。
クロモリフレームになってからというもの、「速く走らないと」という脅迫観念から解放されました。
ブランドイメージもあるのでしょうが、どうしてもピナレロ GAN S に乗っていると、時速25kmで巡行するのが躊躇われました。
いやもうヘロヘロなんですよー、と思いながらも、時速25kmで走っているとどうしても「もっと速く走らないと」と思ってしまうんですよね・・・。
これが、細身のクロモリロードになると、そういった気持ちもなくなり、「それも一つの走り方」と受け止めることができるようになりました。
Sticky の素晴らしいところは、低速巡行が楽というだけでなく、時速35kmの巡行速度を維持するのも同様に楽、という点にあります。
人通りがある細い道であれば時速25kmで巡行し、幹線道路に出たら時速35kmで巡行する。
そんなメリハリの効いた走り方を、その時の気分や体力に応じて自由に選択することができる。
ゆっくり走りたい気持ち、速く走りたい気持ち。
どんな思いであってもそれを受け止めるだけの懐の広さを持ったフレームが Stickyなんだと思います。
6. 独特なしなりが生む奥深さ
つらつらと書いてきましたが、私が書いた内容が「物理的に」正しいかどうかは、私には証明しようがないのですが、「主観的に」は嘘偽りのない内容となっています。
しかもずるいことに、オーダーフレームであるが故に、私が味わっているこの乗り味に関しては、全く同じポジションと全く同じフレームサイズでないと再現することはできないわけで、「いやいやそれは違う」と反論される言われもないわけです。
それなら、こんなレビューの内容は全く参考にならんわ、という話になりかねないのですが、例えば私がフレームオーダー前に乗った Sticky はオーダーしたものとはサイズは違いましたが、乗り味の傾向はかなり近かったです。
これこそ、たとえサイズやポジションが違ったとしても、ケルビムのビルダーが実現してくれている「Sticky ならではの乗り味」なんだろうと思います。
クロモリフレーム特有の「しなり」と言われると、イメージとしては大きな「しなり」をイメージするかもしれませんが、実際に乗ってみるとそこまで大きな撓みやしなりがあるわけではありません。
確かに、クロモリフレームによっては、目で見て分かるほどのしなりがあったり、自分の目線が上下するほどのおおきな動きを伴うしなりのあるものもあります。
ケルビムの Sticky は、乗ってしまうとほんの僅かな「溜め感」を感じる程度のしなりでしかないのですが、そのわずかな「しなり」が生み出す高いトラクション性、振動吸収性、走行性能、全てが明確な個性へと繋がっています。
個人的には、「この点はカーボンフレームの方が良かったな」と感じる点が何もないフレームでした。
全ての人にハマるとは限りませんが、ハマると抜け出せない魅力のあるフレーム。
本当に良い出会いをすることができたと感じています。
コメント
(^^♪シルキーはモリのあじ~(^^♪ クロモリの印象はこれに尽きると思いますが
ミニベロの様な漕ぎだしの軽さではなくスムースさがクロモリならではの印象。
ガシガシ漕ぐ気にもなれませんが登り坂では前を行く高校生の足並みにも順応
自分も歩いているかの様な感覚でゆっくり登ってた事に感動を覚えたり・・・。
クロモリに戻ったのをきっかけにクロモリマウンテンバイク(ANCHOR XNC7)も
フォークをリジッドにタイヤも細身のグラベルロードにカスタムしたり・・・。
きときと富山の常備薬のごとくいつでもどこでも気軽に出かけられる足車として
クロモリは欠かせない相棒になっていてほんとうにクロモリっていいですね~!。
スチールフレーム、スルーアクスルでもシルキーな乗り心地は実現できるのか、ケルビムの今野さんにお聞きする機会があればなぁ…と夢想しています。
>老爺さん
実際に乗ってみて「シルキー」の意味がよく分かりました。
ほんと「シルキー」だと思います。
クセになる乗り味なんですよね。。。
>鬼のパンツさん
ディスク用のStickyもあるようですが、乗り味がどう変わるのか私もきになります。
数年後は流石にディスクにせざるを得ないのかな、とか。
機会があれば乗ってみたいですねー。
カーボンフォークだと軽いですね。私の乗っていたクロモリはフォークだけで1kg超えでしたから、700g前後の差ですね。
クロモリの乗り味は一括りに出来ないくらい千差万別なので、良い自転車に出会えてなによりです。
>たかにぃさん
フォークだけで1kgはなかなかですね。
それだけで乗り味は変わりそうですよね。
ほんと、クロモリは一台毎、各種類毎に千差万別というのがよくわかりました。